それでも米朝会談に「電撃破談」の可能性が残る理由 ニュース 2018年05月17日 0 「1億年経っても」…? 朝鮮半島情勢が激しく動いている。米国のトランプ大統領はイラン核合意から離脱し、北朝鮮をけん制する一方、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は中国を再訪問した。2度目の「命乞い」外交である。一連の展開を整理する。 北朝鮮の動揺を示す兆候はあった。朝鮮労働党機関紙、労働新聞が5月6日、日本との対話について「下心を捨てない限り、1億年経っても我々の神聖な地を踏めないだろう」と日本を強く批判したのだ。 この論評は「日本の孤独な境遇は実に哀れ」としたうえで、産経新聞など日本のメディアが拉致問題について「わめきたてている」が「運命の分かれ道で(日本が)いまいましく振る舞うなら、除け者の境遇を免れない」「日本は心を入れ替えろ」と指摘した。 同じ6日、北朝鮮の外務省報道官は朝鮮中央通信の質問に答える形で、米国が経済制裁や人権問題で圧力を加えていることについて「我々の非核化の意思が(米国の)制裁と圧力の結果であるかのように世論を誘導している」と批判した。 北朝鮮はこれまで、6月上旬に予定される米朝首脳会談の実現に向けて、対話ムードの盛り上げに懸命だった。ところが、記事と報道官発言は一転して、日米をけん制した形である。 それでも米国については表現が柔らかく、おずおずとした感じがあるが、日本は「1億年経っても」などと独特の強い表現で非難している。よほど気に障っているのか、なんとも涙ぐましいほどだ(笑)。 1億年も経ったら、北朝鮮という国があるかどうかも疑問だが、そこは措くとしよう。この記事を読んで、私は「これは先週、公開した私のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55551)に反応したのか」と思った。 私は先週のコラムで、北朝鮮が本当に「いい子」になったかどうかを確かめるには「日本人拉致被害者を解放し、かつ中短距離ミサイルを撤去するかどうか」を見ればいい、と指摘した。この2つの問題こそが、彼らの真意を示す「リトマス試験紙」になるのだ。 彼らが「いい子」になって国際社会と調和していくつもりなら、拉致問題を解決しないわけにはいかない。隣の韓国や日本を狙う中短距離ミサイルも撤去するのは当然だ。 だからこそ、この局面で「日本は米国と歩調をそろえて、一段と圧力を加えるべきだ」というのが、私の主張である。実際、トランプ大統領は水面下の事前交渉で「非核化とともに拉致問題を持ち出した」という観測もある。 彼らは拉致問題を持ち出されるのが、よほど嫌だったに違いない。拉致問題の重要性を強調した産経報道や私のコラムが急所を突いていたからこそ「1億年」などという突拍子もないセリフが出てきたのだ。 北朝鮮にとって、拉致と中短距離ミサイルは交渉の「のりしろ」である。非核化をめぐって米国と厳しい交渉になっているのに、拉致や中短距離ミサイル撤去でも譲歩したら、彼らは全面敗北になってしまう。さすがに「それは避けたい」と思ったのだろう。 すなわち、今回の記事は彼らの「いい子になる」という話がまやかしであることを物語っている。トランプ氏が会談で拉致問題を持ち出す前から、強い拒絶反応を示したのだから、彼らの姿勢は何も変わっていない。追い込まれた金正恩 以上を踏まえて、今回の電撃訪中をどうみるか。 結論を先に言えば、正恩氏は明らかに動揺している。そもそも、米朝首脳会談を持ちかけたのは正恩氏の側である。なんとしても、米国の軍事攻撃を避けるためだ。3月末には中朝首脳会談を開いて「朝鮮半島の非核化」をアピールした。 正恩氏とすれば、大転換を高く評価してもらいたかったはずだが、水面下の事前交渉で米国の強硬姿勢は変わらない。それで、2度目の訪中になった。そうとみて間違いない。つまり、傍目も気にせず、再び中国に助けを求めた「命乞い」訪中である。 新華社通信が伝えた会談内容には、なんの目新しさもない。習氏はもともと新型空母視察で大連を訪問する予定だった。正恩氏は習氏にすがるより手がないので、嫌いな飛行機に乗ってでも習氏に面会時間を割いてもらったのだ。正恩氏は縮み上がっている。 そこへ、トランプ氏がイラン核合意を破棄した。この合意について、トランプ氏はかねて「致命的な欠陥がある」と強く批判していた。遠心分離機の数やウラン濃縮を制限したものの、上限を設けただけで、期間もそれぞれ10年、15年と区切ったにすぎない。 ようするに、核開発を少し遅らせるだけで、やがて開発再開が可能になる取り決めだった。イランは合意に反して秘密裏に技術やデータを保有し続けている疑惑もあった。 肝心なのは、トランプ氏がいい加減な核合意を許さず、経済制裁の復活を決断した点である。これはそのまま北朝鮮に当てはまる。大統領が自ら語ったように、北朝鮮に「中途半端な妥協はしない」というメッセージである。正恩氏には追い討ちになったはずだ。 追い込まれた正恩氏とトランプ氏の強硬姿勢は、米朝首脳会談の先行きを暗示している。米朝会談「決裂」のシナリオ ずばり言おう。私は「トランプ氏は首脳会談を壊す可能性が出てきた」とみる。会談がセットされたとしても、本番では大統領が席を立って、少なくとも最初の1回は破談にする可能性がある。なぜか。 米国からみれば、動揺している正恩氏を本当に「改心」させるには、2度と「悪い子」にならないように心底、震え上がらせたほうがいい。それには「首脳会談を破談にするくらいでちょうどいい」という判断がありうる。いまが絶好の局面なのだ。 この点について、私は最近、日本政府の軍事・情報部門の責任者たちと意見交換した。結論のみ記せば、彼らは正恩氏の置かれた状況を含めて、私と同じ見立てである。 米朝会談が決裂すれば、米国の軍事攻撃シナリオが蘇る。米国の攻撃能力には、何の問題もない。問題は北朝鮮が先に暴発する可能性がある点だ。「北朝鮮が先に攻撃を仕掛けたらどうなるか」についても意見を聞いたが、ここに記すのは日米の軍事能力を明かす形になるので、触れない。 いずれにせよ、一連の展開で明らかになったのは「北朝鮮がいよいよ追い詰められている」という実態だ。トランプ氏が北朝鮮に派遣したポンペオ国務長官は、勾留されていた3人の米国人を取り戻して帰国した。 これも正恩氏の動揺を示している。北朝鮮は米国の機嫌を損ねて首脳会談を壊したくないために、会談前から3人を解放せざるをえなかった。報道官の批判と実際の行動は真逆だ。いまや主導権は完全に米国が握っている。交渉はいよいよ大詰めである。長谷川 幸洋引用:それでも米朝会談に「電撃破談」の可能性が残る理由 PR